高水敷掘削

提供: 河川生態ナレッジデータベース


目次

概要

背景

 河川自然再生事業については、その目的を陸域河原環境再生とする事業が全国で数多く実施されている(引用:多摩川河川生態学術研究グループ 2006)。河原はダイナミックな河川環境を代表する自然景観であるが、過去の人為的インパクトの影響によりその面積が急激に減少している(引用:関根ほか 2009)。
 河原再生自然再生として積極的に実施されるのは3つの理由によると考えられる。
 ひとつは、治水安全度の向上である。河原の減少のひとつの原因である河道の樹林化の改善は、治水上のリスク低減となる。また再生した河原の維持には撹乱頻度、冠水頻度をあげるために高水敷を 切り下げることが多いが、それは治水上も好ましい条件となる。
 次に生息場としての価値である。河原は特殊な自然環境であり、そこに依存した生物の貴重が 多い。カワラノギクカワラバッタなど名前に「カワラ」とつく多くの生物は稀少となっており、河原の減少によりこれら多くの生物の減少・絶滅が危惧されている。
 3つめは、河原の親水機能、環境教育の場としての重要性である。河原があることにより、人々が川に親しむことができ、ひいては川と自然の関係性を回復する場ともなりうる(引用:多摩川河川生態学術研究グループ 2006)。
 国内において河原再生に関連する研究は多摩川の河川生態学術研究における事例等を中心にその他の河川でも増加傾向にあり(引用:国土交通省HP)、その技術的知見はかなり高まってきている(引用:多摩川河川生態学術研究グループ 2006)。


参考文献


方法

 高水敷掘削は、出水時における洪水流の通水面積の確保や、平常時における筋の自由度の確保と生物の多様性確保等を目的として、主に表層堆積物を高さ方向に掘削する方法である。このときの掘削高は、想定する流量を安全に流下可能とするときの必要河積から設定する。
 なお、高水敷掘削の主目的を治水ではなく環境の観点から設定する場合は、上記を前提として自由度をもって設定することが出来る。また、多くの事例では掘削とあわせて、河原を造成し所定の環境維持が期待できる形状に整地する場合が多い。その際、高水敷上に生長する草本類や木本類は、貴重の対策を施した上で、掘削といっしょに伐採や伐根を行う(引用:島谷ほか 2001)。
参考文献


インパクト・レスポンスフローで扱う対象

 高水敷の表層堆積物を高さ方向に掘削する方法の知見よりインパクト・レスポンスフローを整理している。
 具体的には、比高差が大きく冠水しにくい高水敷に対して、堤防の安定や管理用道路等河川管理施設の維持を考慮したうえで、これを掘削する方法である。その際、掘削位置は流水部付近から行うものとし、掘削高は河川流水の平常時流況出水の規模に応じ設定する(引用:千曲川河川生態学術研究グループ 2008、多摩川河川生態学術研究グループ 2006)。また、高水敷に生長する草本類や木本類は、掘削にあわせて伐採や伐根を行う(引用:多摩川河川生態学術研究グループ 2006)。
 なお、インパクト・レスポンスフローでは、事業実施事例の多い河川工学的に「セグメント1」「セグメント2」と言われる範囲を対象としている。
 ※掘削を伴わない樹木伐採については別途示している。



参考文献

  • 1)河川生態学術研究千曲川研究グループ(2008)千曲川の総合研究Ⅱ-粟佐地区の試験的河道掘削に関する研究-
  • 2)河川生態学術研究多摩川研究グループ(2006)多摩川の総合研究-永田地区の河道改修-,河川生態学術研究会


河川におけるインパクト・レスポンス

インパクト・レスポンスの概要



 高水敷は、出水に伴う冠水においてのみ攪乱を受ける空間である。このため、植物を始めとする生物は安定的に存続する高水敷に棲家を構え生長する。高水敷掘削の目的は1.概要に述べたとおりであり、河床に堆積するシルトに加え、安定的に生長した草本類や木本類、堆積した有機物等を攪乱・除去することなどにより、場を改変する作業である。これを時間軸をもって整理すると以下のシナリオとなる。


 まず、高水敷の掘削直後のレスポンスである。高水敷を掘削することにより、そこに生育する草本類及び木本類を伐採・伐根・除去する。この直接的な行為により、その場に生育している草本類・木本類は一時的に消失する。掘削した箇所は下層に堆積する材料を上下に撹乱することにより、表層の材料が多様な粒径のを中心とした「河原」となり、生息する動植物のすべてが一時的に変化する。

 次に、掘削後数年におけるレスポンスである。ここでは直接的な改変後に生じる出水やその他のインパクトにより生じる現象をとらえるため、間接的な変化としてとらえることとする。場の改変により、掘削された砂州部では中小出水時においても冠水する撹乱域の拡大が生じる。撹乱域の拡大により、撹乱を受ける砂州河床材料堆積傾向を抑制したり、砂州高の維持に寄与するほか、細粒材料の掃流によりこれまで高水敷の表層に見られた細粒土砂堆積を抑制し砂州材料の化を維持・促進する。

 このような高水敷掘削箇所の植生は、河床が一定の撹乱を受け、また細粒材料の堆積が少ない砂州では、直接的な改変直後に発芽したパイオニア種の維持が見られるが、撹乱を伴う出水が減少すると、地形に依存するパイオニア種が減少しパイオニア種以外の草本類の生長がすすむことになる。なお、撹乱域の拡大に伴い、掘削が行なわれない高水敷部やその水際では、流水深が減少しわずかながら掃流力低下が生じることがある。これにより撹乱するの粒径が小さくなるほか細粒材料の堆積が緩やかになることから、出水直後にパイオニア種以外ののが早くから生長し、多年生草本類(ツルヨシ等)の優先発生が生じる場合がある。

 また、高水敷掘削箇所の鳥類は、掘削前と掘削後で生息鳥類類と数が変化する。具体的には、水辺砂礫地で繁殖する鳥類は増加し、林や藪に生息する鳥類や崖に営巣する鳥類は減少する。哺乳類で見れば、高水敷掘削により大規模な伐開工事等が行われた場所は、中型哺乳類の行動等に影響を及ぼす。昆虫類で見れば、高水敷掘削及び河原の造成により、河原に生息する昆虫類数や個体数に変化が生じる。魚類で見れば、高水敷掘削においては、砂州等の掘削による直接的な河川形態河道形状の変化のほか、河積の変化に伴う掘削後の出水時の流況土砂移動の変化等により、上下流区間も含めて、分布するの位置や構造、河床高や河床構成材料等の変化が生じる可能性があり、これにより魚類の生息に変化が生じる。このように、高水掘削により生物の生息にも変化が生じることが報告されている。


物理環境のレスポンス

 以下に、フロールートにおける現象を解説した。

① [[高水敷|高水敷]]掘削 → [[高水敷|高水敷]]地表面の改変、[[撹乱|撹乱]]域の変化、河床の[[撹乱|撹乱]] ② [[高水敷|高水敷]]地表面の改変 → [[ハビタット|ハビタット]]の変化、[[高水敷|高水敷]]材料・[[植生|植生]]の変化、崖地・[[草地|草地]]等の変化、[[砂礫|砂礫]][[河原|河原]]の[[創出|創出]] ③ [[撹乱|撹乱]]域の変化 → [[砂州|砂州]]材料の変化 ④ [[撹乱|撹乱]]域の変化 → [[砂州|砂州]]高の維持([[冠水|冠水]]頻度の維持) ⑤ [[砂州|砂州]]材料の[[礫|礫]]化 → 表層透[[礫|礫]]層の一般[[礫|礫]]層化 ⑥ [[撹乱|撹乱]]域の変化 → [[水際|水際]]の[[礫|礫]]床帯の[[掃流力|掃流力]]変化 ⑦ 河床の[[撹乱|撹乱]] → [[瀬|瀬]][[淵|淵]]の変化、河床高の変化、河床構成材料の変化

① 高水敷掘削 → 高水敷地表面の改変、撹乱域の変化、河床の撹乱

 高水敷の掘削は、流水面(河積)の拡大を目的のひとつとしている。ある規模の出水に対してみれば、高水敷掘削前の河道では低水路に流れが集中することになるため、比高差の大きい高水敷部では攪乱の頻度が少なく規模も小さい。一方で、高水敷掘削により高水敷地表面の改変を受けた河床は、規模の小さい出水や場合によっては平常時であっても冠水し、掘削河床には新たに掃流力が発生し攪乱が生じることになる。


参考文献


② 高水敷地表面の改変 → ハビタットの変化、高水敷材料・植生の変化、崖地・草地等の変化、砂礫河原創出

 高水敷において掘削により地表面の改変を行うことで、高水敷堆積している材料が表層に露出する。露出する材料は、その河川を形成する主な材料に加え、河床を補助的に構成していた補助材料などである(引用:藤田 1998)。これらが露出することで、場(ハビタット)が一時的あるいは長期的に変化する。
 掘削前の高水敷が主に草本類や木本類といった植生で覆われている場合、掘削によりほとんどが取り払われる。これにより、植生植生の周りに堆積していたシルトなど細粒の材料は消失し、砂礫河原創出される。河岸が段丘などの斜面に連続する場所では、崖地のような地質材料が連続で露出した斜面が形成される。


引用文献

  • 1)藤田光一(1998)河床材料の見方について 土木技術資料,第40巻,12号,pp.14-15


参考文献


③ 撹乱域の変化 → 砂州材料の変化

 高水敷の掘削により、これまで平常時に冠水する筋との比高差が小さくなり、比較的平坦な河床が形成される。平坦な河床は、小規模の出水のみならず平常時であっても冠水し、流水の影響を受けやすくなる。流水は、物質の縦断的な移動の要因であり、発生する流水の力(掃流力)が河床に堆積する材料を運搬する機能(引用:福島 2008)を果たす。掃流力は、流水の勾配や水深の関数であり、以下の式で表される(引用:土木学会 1999)。

  τ=ρU*2
  U*2=gri

 ここにτ:限界掃流力、ρ:水の密度、u*:摩擦速度、g:重力加速度、i:エネルギー勾配、r:径深(水深) である。岩垣によれば、掃流力(摩擦速度)と材料の動きやすさの関係として、以下を示している(引用:土木学会 1999)。

  0.3030 ≦ d       ; u*c2 =80.9d
  0.1180 ≦ d ≦ 0.3030 ;     =134.6d31/22
  0.0565 ≦ d ≦ 0.1180 ;     =55.0d
  0.0065 ≦ d ≦ 0.0565 ;     =8.41d11/32
         d ≦ 0.0065 ;     =226d

  ここにd:移動限界粒径、u*c:移動限界摩擦速度 である。

 上式は、小出水や場合によっては平常時の流量であっても河床に分布するシルト等の細粒材料を下流に移動させる力を持っていることを意味しており、河床勾配や水深が確保された砂州部では、細粒材料が減少し砂州材料の化が促進され、透層が形成(引用:福島ほか 2006)されることになる。


引用文献


参考文献



④ 撹乱域の変化 → 砂州高の維持(冠水頻度の維持)

 高水敷掘削面では、出水時に働く掃流力が増加するため、細粒材料をはじめ比較的粒径の小さい下流に移動し、掘削部の標高は維持されやすい(引用:福島ほか 2008、李ほか 1999)。また、従来より筋を形成していた箇所では、撹乱域の横断幅が大きくなるため筋部の水深がわずかに小さくなり、掃流力も低下(引用:土木学会 1999)する。これにより筋部の河床低下は小さくなる。
 このように、撹乱域の拡大は、砂州部に植生が生長する河川に見られる砂州部の河床上昇と筋の河床低下の緩和に寄与するため、掘削により形成された砂州高(砂州標高-筋標高)は維持されることになる。


引用文献


参考文献


⑤ 砂州材料の化 → 表層透層の一般層化

 表層が粗粒化した砂州上の透層は、その後に小出水のみ繰り返し発生すると、流下する細粒土砂間の間隙を充填し残存するため、やがて一般層(多様な粒径がおよそはまり状態で堆積する層)に変化する(引用:福島ほか 2006)。
 なおIRとは違う現象として、一時的に形成された一般層は規模の大きい出水により再び透層に戻る場合がある(引用:福島ほか 2006)。


引用文献


参考文献


⑥ 撹乱域の変化 → 水際床帯の掃流力変化

 高水敷掘削に伴う撹乱域の拡大により、筋部の水位は低下し掃流力が減少する。とくに掘削した砂州のうち水際部では掘削による水位変化が大きいため、掃流力の減少も大きい。
 なお、理論的に見れば、掃流力の変化は水深の0.5乗に比例する(引用:土木学会 1999)ことから、水位低下が数cm程度の地点では、掃流力の低下量は非常に小さいものとなる場合が多い。このことから、河積の拡大が掃流力低下につながるケースは、高水敷を面積・深さの両方とも大規模に掘削した場合に生じるものである。


引用文献

  • 1)土木学会(1999)水理公式集(平成11年度版)


参考文献


⑦ 河床の撹乱 → の変化、河床高の変化、河床構成材料の変化

 高水敷の掘削により河床の撹乱を受けやすくなった砂州では、流水の影響を受けやすくなり、主に出水時の流水による掃流力が大きく発生する。掃流力の増大は、河床に分布する砂礫の移動を容易にすることが理論上明らかになっている。
 平常時においても冠水する流水部においては、常に掃流力が発生するため河床構成材料は常に一定の撹乱が生じており、出水の規模によっては河床高の変化をもたらすほか、の形状や大きさを微妙に変化させる。これらの現象の発生する規模は河道の大きさや発生流量などにより異なる(引用:山本 2010)。
 高水敷の掘削により流水断面積が拡大されることで、同一流量時における河川水位は低下する。これにより流水部では掃流力がわずかに減少するほか流心位置が変化するため、河床を構成する材料は場所により変化するほか、河床高は変化する。また、掘削により冠水頻度が高くなった砂州の出現により、出水時においては水衝部の位置が変化し、形成されるの位置や大きさが変化する可能性がある。


引用文献


参考文献


生物環境のレスポンス

 以下に、フロールートにおける現象を生物ごとに解説した。

1)植物のレスポンス


① 高水敷地表面の改変 → 河原固有のパイオニア種の発芽

 直接的な変化により、これまで表層材料の細粒化が生じていた高水敷は、攪乱により下層に堆積していた粒径の多様なが表層に出現する。このとき、物理環境の攪乱とあわせて、生長する草本類や木本類も伐採・除去することにより、高水敷掘削箇所はみお筋や水際部に見られる砂礫河原が出現する。これにより、草本類や木本類の生長はゼロからのスタートとなる。この状況は、大規模な出水により植生の生長する高水敷が大きく攪乱されることで出水後に低水路一面が砂礫河原に変化するという自然現象を人為的に起こしていることと同様の意味をもつ。
 多くの場合、植物の生長は「一年生草本類~多年生草本類~低木群落高木林・極相林」への遷移過程をとることが検証されている(引用:李ほか 1999)。生長初期段階である一年生草本類は、その河川の物理環境や気象条件等に適した固有のである場合が多く、カワラノギクカワラサイコ等といった河原固有種パイオニア種として優先的に生長する(引用:李ほか 1999)。これらの植生は、地域の代表として存続が求められている場合が多く、「一定の攪乱を受けること」が可能な高水敷の掘削を実施することが、河原固有のパイオニア種を維持・復元するための一手段として有効である(引用:倉本ほか 2002)。


引用文献


参考文献

  他


② 砂州材料の化・砂州高の維持 → 河原固有のパイオニア種の発芽

 多くの場合、植物の生長は「一年生草本類~多年生草本類~低木群落高木林・極相林」への遷移過程をとることが検証されている(引用:李ほか 1999)。これらは主に砂州部の撹乱の減少による砂州高の上昇や砂州材料の細粒化によりもたらされる(引用:李ほか 1999)。しかし、頻繁に冠水する化した砂州では、出水のたびに撹乱を受けるため、植生遷移が生じる前に河床が撹乱され、植生の生長は再びゼロからのスタートとなる。
 このように、河床材料化し砂州高が維持された砂州では、河原固有のパイオニア種が優先的に発芽する環境(引用:畠ほか 2009、李ほか 1999)となる。生長初期段階である一年生草本類は、その河川の物理環境や気象条件等に適した固有のである場合が多く(引用:倉本ほか 2002)、カワラノギクカワラサイコ等といった河原固有種パイオニア種として優先的に生長する(引用:李ほか 1999)。これらの植生は、地域の代表として存続が求められている場合が多く、「一定の攪乱を受けること」が可能な高水敷の掘削を実施することが、河原固有のパイオニア種を維持・復元するための一手段として有効である(引用:倉本ほか 2002)。


引用文献


参考文献

 他


③ 河原固有のパイオニア種の発芽 → パイオニア種の維持

 河原固有のパイオニア種が発芽した砂州では、定期的に撹乱を受けることで物理環境が維持されることや、他の草本類の撹乱・流出が期待できることなどから、パイオニア種が維持される(引用:李ほか 1999)。


引用文献


参考文献


④ 河原固有のパイオニア種の発芽 → パイオニア種以外の草本類の生長

 砂州部において「一定の攪乱」を出水に求める場合、自然現象ゆえの不定期性により攪乱を起こす出水が発生せず、競合に強い異草本類が優位に成長する場合もある(引用:李ほか 1999)。例えば、カワラノギクカワラサイコなどの固有のはパイオニアとして早期に着根し生長を開始するが、遅れて生長を始めたツルヨシ等の多年性草本類に比べ競合性が弱いため、洪水後における間隙の細粒材料の充填状況によってはツルヨシが優先的に生長をし、固有種は減少することになる(引用:崎ほか 2000)。


引用文献


参考文献


⑤ 表層透層の一般層化 → パイオニア種とそれ以外のの競合による多年生草本類(ツルヨシ等)の優先生長

  表層の砂礫堆が一般層に変化すると、河原固有のパイオニア種に加え多様な草本類が生長可能となる(引用:李ほか 1999)。その場合、競合に強いが優先的に生長することになる(引用:李ほか 1999)。
 細粒化した砂州では、撹乱が生じないことや細粒材料が構成することによる着根のしやすさ(引用:李ほか 1999)、小さな空隙による水分の蓄積のしやすさ(引用:渡辺ほか 1998)等から、多様な草本類が安定的に成長しやすい。細粒材料で構成される砂州は、草本類の根を広げやすいという物理的理由に加え、細粒材料の組合せによる小さな間隙が保水機能を有し、必要な水分の確保が可能となる(引用:渡辺ほか 1998)。


引用文献


参考文献


⑥ 水際床帯の掃流力変化 → パイオニア種とそれ以外のの競合による多年生草本類(ツルヨシ等)の優先生長

  筋脇の水際砂州部において掃流力が低下した場合、間隙に細粒材料が残存し、河床材料に占める細粒分の構成比率が上昇する(引用:福島ほか 2006)。また、掃流力の低下により、洪水流によりせん断・抜根されていた、または子の定着が出来なかったツルヨシ等の多年性草本類が一部残される(引用:崎ほか 2000)ことになる。これにより、競合に強いツルヨシなどの異草本類が優位に成長する場合もある(引用:李ほか 1999)。


引用文献


参考文献


2)昆虫類のレスポンス


① ハビタットの変化 → 河原に生息する昆虫類相の変化

  高水敷掘削及び河原の造成により、千曲川ではカワラバッタ、ハンミョウ類、ウスバカゲロウ類等の河原に生息する数や個体数が増加したという事例がある(引用:静山 2008)。また、環境の変化に敏感に反応する河原に固有な植物を利用する昆虫類は、流域全体で絶滅かそれに近い状態にある場合、周辺からのの供給が起こらず、新たな発生が見られないことがある(引用:須田 2006)。
 なおIRとは違う現象として、周辺区域からのの供給により高水敷の掘削前後で構成に顕著な変化は見られない場合もある(引用:須田 2006)。


引用文献
  • 1)河川生態学研究多摩川研究グループ 須田真一(2006)多摩川の総合研究-永田地区の河道改修-,pp.317-330
  • 2)河川生態学研究千曲川研究グループ 藤山静雄(2008)千曲川の総合研究Ⅱ-粟佐地区の試験的河道掘削に関する研究-,pp.12.13-1 ? 12.13.12


3)哺乳類のレスポンス


① ハビタットの変化 → 中小哺乳類の行動変化

  高水敷の掘削工事により中・小型哺乳類ハビタットが変化し、これらの行動に変化が生じる。マルチテレメトリシステムによる行動調査によると、タヌキ・イタチ等の中型哺乳類は、工事中及び工事後にはしばらく撹乱区域を忌避する。なお、工事終了後は比較的早い時期に採餌場等に戻ることも確認されている(引用:吉田ほか 2008)。タヌキの例では、行動圏内の環境の変化や人の気配に反応しその行動パターンを変化させる可能性がある(引用:岩本 2004a)。
 なおIRとは違う現象として、騒音・振動が比較的少なく、かつ藪などの植生が残っている場所では、泊まり場所を継続して利用している場合がある(引用:岩本 2004a)ほか、中型・小型哺乳類ともに行動範囲に対して工事区域が小さい場合は、工事実施前後で行動範囲に大きな変化は生じない場合もある(引用:吉田ほか 2008)。


引用文献
  • 1)河川生態学術研究千曲川研究グループ 吉田利男ほか(2008)千曲川の総合研究Ⅱ-粟佐地区の試験的河道掘削に関する研究-,pp.12.14-1- 12.14-17
  • 2)河川生態学研究北川研究グループ 岩本俊孝(2004a)北川の総合研究-激特事業対象区間を中心として-,pp.3-5-1 - 3-5-27


参考文献
  • 1)岩本俊孝(2004)河川敷に棲む中型ほ乳類の土地利用様式と工事による影響の評価,第51回日本生態学会大会公募シンポジウム要旨,p3
  • 2)傳田正利ほか(2004)新しい野生動物研究技術-MTSとGISの連携の可能性と今後の展開,土木技術資料46-7,pp.44-49


② 高水敷材料・植生の変化 → 小型哺乳類の個体数の変化

 高水敷掘削による砂州植生変化により小型哺乳類の個体数に変化が生じる。アカネズミはササ密度の高い場所やヨシ原で生息密度が高いことが知られているが、高水敷の掘削により地表を覆う植生の被度が減少した場所では個体数の低下が見られる(引用:吉田ほか 2008)。
 


引用文献
  • 1)河川生態学術研究千曲川研究グループ 吉田利男ほか(2008)千曲川の総合研究Ⅱ-粟佐地区の試験的河道掘削に関する研究-,pp.12.14-1- 12.14-17


4)鳥類のレスポンス


① 崖地・草地等の変化 → 崖地・草地等を利用するの繁殖数・個体数の変化

  高水敷掘削に伴う樹木の伐採により、樹林に生息するシジュウカラ等の森林性の鳥類の個体数が減少する(引用:宮武 2006)。指標調査によると、樹上と草地を行き来していたカラ類の移動状況に変化が生じていることが示唆されている(引用:大堀 2006)。繁殖については、営巣環境の減少・消失により、草地で繁殖するモズ・キジバト、崖に営巣するカワセミ等の繁殖が見られなくなることがある(引用:中村 2008)。一方で、オオヨシキリは通常営巣するヨシやオギのかわりにオオブタクサ群落で繁殖するなど、繁殖に利用できる環境に広いポテンシャルがあるなどの事例も報告されている(引用:中村ほか 2008)。


引用文献
  • 1)河川生態学術研究多摩川研究グループ 大堀 聰(2006)多摩川の総合研究-永田地区の河道修復-,pp.273-304
  • 2)河川生態学術研究多摩川研究グループ 宮武武志(2006)多摩川の総合研究-永田地区の河道修復-,pp.305-316
  • 3)河川生態学術研究千曲川研究グループ 中村浩志(2008)千曲川の総合研究Ⅱ-粟佐地区の試験的河道掘削に関する研究-,pp.12.15-1 - 12.15-32


参考文献
  • 1)河川生態学術研究千曲川研究グループ 中村浩志(2001)千曲川の総合研究-鼠橋地区を中心として-,pp.676-684


② 砂礫河原創出 → 砂礫河原利用の繁殖数・個体数の変化

  多摩川では、高水敷を掘削し砂礫河原創出することにより砂礫河原営巣するコチドリイカルチドリが新たに繁殖したり、繁殖数が増加することが報告されている(引用:大堀 2006)。また、樹林の伐採により、砂礫河原植物子が供給され、カワラヒワやスズメ、シメ等の子食の鳥類の利用が増えたり(引用:大堀 2006)、開けた環境を利用するセキレイ類などの水辺水生昆虫食の鳥類が増加したりするなどの事例が報告されている(引用:中村ほか 2001)。


引用文献
  • 1)河川生態学術研究多摩川研究グループ 大堀 聰(2006)多摩川の総合研究-永田地区の河道修復-,pp.273-304
  • 2)河川生態学術研究千曲川研究グループ 中村浩志ほか(2001)千曲川の総合研究-鼠橋地区を中心として-pp.480-501


参考文献
  • 1)河川生態学術研究千曲川研究グループ 中村浩志(2001)千曲川の総合研究-鼠橋地区を中心として-,pp.676-684
  • 2)河川生態学術研究多摩川研究グループ 宮武武志(2006)多摩川の総合研究-永田地区の河道修復-,pp.305-316


③ 高水敷材料・植生の変化 → 砂礫河原利用営巣状況の変化

 例えばイカルチドリのような河床を好む鳥類は小さな玉をよけ、小さなくぼみを作りごく細かな木っ端などを並べた地表部にじかに産卵する。多摩川の例では、イカルチドリ営巣場所として小径の玉が分布する場所を選択する。大径の玉が多い造成砂礫河原ではほとんど営巣せず、小径の玉が多い自然河原で多く営巣する(引用:大堀 2006)。このように、高水敷の材料や植生が変化することで、砂礫河原を利用する鳥類営巣状況が変化することが報告されている。


引用文献
  • 1)河川生態学術研究多摩川研究グループ 大堀 聰(2006)多摩川の総合研究-永田地区の河道修復-,pp.273-304


5)魚類のレスポンス


① ・河床高・河床構成材料の変化 → 魚類相の変化

  高水敷掘削においては、工事中の土砂の発生や流下、河積の変化に伴う出水時の流況土砂移動の変化等により、上下流区間も含めて、分布するの位置や構造、河床高や河床構成材料等の変化が生じる場合がある。これにより、魚類相が変化する場合がある。
 なおIRとは違う現象として、もともと降雨時の土砂の流下が日常的に見られていたり、河床や水質に影響が出にくい工法をとる場合には、河川改修事業による影響が見られない場合もある(引用:松井ほか 2004)。


引用文献
  • 1)河川生態学研究北川研究グループ 松井誠一ほか(2004)北川の総合研究-激特事業対象区間を中心として-,pp.3-4-6 3-4-15


着目した関係要素とその検証

 フローのうち、特に着目すべき応答の関係について、さまざまな事例における知見を整理した。
 なかでも、調査の事例の多い、冠水頻度と植生遷移の関係(A)、平水位からの比高と植生遷移の関係(B)、砂州表層材料粒径と植生遷移の関係(C)については、定量的なデータを図表に整理した。

着目すべき応答関係についての知見




河川におけるインパクト・レスポンス

インパクト・レスポンスの概要

 河川の明確な定義はないが、一般にを主材料として河床を形成する河川を言う場合が多い。代表的な河川である木津川は、その上流が花崗岩質の地質で構成されており、この風化によるマサ土が主に出水時の流水により運搬・堆積し現在の河道を形成している。河床材料のほとんどがである木津川では、大小さまざまな出水により河床材料が頻繁に動き、それに連動して植生が生長している。河床材料の動きに着目すれば、河川における動きとは異なる現象が生じているため、高水敷掘削による河床形態の変化や河道内生物の変化は、河川とは異なるものであると考えられる。  しかし、河川における高水敷掘削の事例や掘削後の物理環境および生物環境に関する知見は蓄積段階にあり、河川における知見ほど整理されていない。  ここでは、木津川を中心とした研究により蓄積された知見をもとに、河川との違いの観点から高水敷掘削を実施した場合のIRを定性的に示した。


物理環境のレスポンス

河川で生じている物理環境の現象

 河川における主な材料は(粒径分類でいう0.062~2.0mm)である。木津川の河川区間である下流域約20kmの材料は、場所により若干異なるものの、代表粒径(d60)が0.1~3mm程度であり、かつ2mm以下の材料が40~100%程度を占めている(引用:鷲見ほか 2002)。をはじめとする粒径の小さい材料は、水理的に見れば小さい掃流力でも頻繁に動く。岩垣によれば、以下の関係が示されている(引用:土木学会 1999)。


  0.3030 ≦ d       ; u*c2 =80.9d

  0.1180 ≦ d ≦ 0.3030 ;     =134.6d31/22

  0.0565 ≦ d ≦ 0.1180 ;     =55.0d

  0.0065 ≦ d ≦ 0.0565 ;     =8.41d11/32

         d ≦ 0.0065 ;     =226d


 また、摩擦速度と流速の関係を展開すると以下の通りである。

  v=1/n・g-1/2・u*c・R1/3

 ここにd:移動限界粒径(cm)、u*c:移動限界摩擦速度(㎝/s)、v:流速、n:粗度係数、R:径深 である。


 今、たとえば粒径2mmの掃流力(摩擦速度)を上式により算出すると、約4㎝/sとなる。また流速は粗度係数を0.030、径深を3mmとすると0.5m/s程度になる。この程度の流速は、出水ピーク時ばかりではなく、出水後期の減水時においても発生しえる。このため、河床材料は頻繁に動き、1出水ごとに河床材料の入れ代わりが激しく生じている可能性がある。
 辻本によれば、木津川の測量結果で得られた出水後の河床上昇(10㎝)が、実際には洪水時に20㎝程度掘れ減水期に30㎝埋め戻された結果であったことが報告されている(引用:辻本 2001)。また河床材料の変化で見れば、粒径の分級作用を支配するものは河川と同様に冠水時の水流によるものだが、洪水時の最盛期の粗粒化作用がそのまま残るものではなく、減水期の等の材料の堆積も強く影響している(引用:辻本 2001)。
 以上の現象から考えれば、砂州地形変化は測量で得られる変化以上に、砂州表層が相当な厚さで入れ替わっていることも推測されている(引用:辻本 2001)。


引用文献


参考文献


砂州河川において高水敷掘削を実施した場合に生じる可能性のある物理環境の現象

 河川において生じている現象をふまえれば、高水敷掘削を実施した場合の物理環境のレスポンスは以下となる。



生物環境のレスポンス(河川との違い)

河川で生じている生物環境の現象

 木津川において生じている現象については、河川生態学術研究において以下の分析がなされている。


植生

 を主材料とした細粒材料で河床や高水敷が構成される河川では、表層の保湿性に特徴がある(引用:辻本 2001)。これにより、茎根が表層に網状に広がる草本類であっても生長が可能となる。微高地を含む植生域には、ヤナギ類の木本のほかに、セイタカヨシやツルヨシなど様々な草本植物が繁茂している。これらは、ヒゲ根系または地下茎が表層の比較的浅いところ(0.6m程度)で横に広がるように生長する(引用:鷲見ほか 2003)。  また、河川では出水時に河床表層の材料が相当の厚さで入れ替わっている(引用:辻本 2001)ことから、表層に浅く根を張る草本植生の多くは出水のたびに流出と萌芽再生をくりかえしている可能性がある。


引用文献


参考文献


地上昆虫

 河川域の植生は多くの昆虫のハビタットとして、あるいは食物提供源となっている。その中でも、河川特有の昆虫として、アリジゴクが注目される。木津川の砂州の中でも、冠水機会が少なく均一な細堆積する場に生息しており、河川ゆえの特徴がある(引用:辻本 2001)。


引用文献


砂州河川において高水敷掘削を実施した場合に生じる可能性のある生物環境の現象

 河川において高水敷掘削を実施した場合の生物環境は、物理環境において生じる現象の違いと同様に河川とは異なる。これに対応した河川特有の生物の変化については、今後の研究を受けて整理されていくことになる。



参考文献


外部リンク


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