護岸の整備

提供: 河川生態ナレッジデータベース

河川事業のインパクト・レスポンスに関する情報

目次

概要

背景
 過去の河川整備は、出水時に発生する流れに対して破壊しにくく、かつ工事や維持管理が容易なコンクリートブロックを多用した構造が主流であった。これにより水際環境が単調になり、生物の多様性が失われていった。平成2年に多自然型川づくりが始まって以来、多自然川づくりが定着しつつある。しかし、河床や水際を単調にするなど、課題の残る川づくりもまだ多く見られる。
 このため、これまでの多自然型川づくりの現状を検証し、新たな知見を踏まえた今後の多自然型川づくりの方向性について、平成18年に「多自然川づくり」が提言された。今後の護岸を含むすべての河川整備は、多自然川づくりの思想の基、整備されることになった(引用:国土交通省 2006a)。

方法
 護岸は、流水による侵食作用から堤防及び河岸保護するために設けるもので、その構造は法覆工、基礎工、根固工等からなる(引用:国土交通省 2006b)。
 護岸の法覆工には、植生系(張芝)、シート系(ジオテキスタイルなど)、木系(粗朶沈床など)、系(自然積など)、かご系(蛇籠など)、コンクリート系(コンクリートブロックなど)による方法が存在する。また護岸の基礎工、根固工では洪水による洗掘等を考慮して捨粗朶沈床、木工沈床などの様々な方法が存在する。



インパクト・レスポンスフローで扱う対象
 ここでは、護岸工の中でも法覆工の影響について整理するものとした。
 また、対象とする護岸は、空積み護岸や空張り護岸のような凹凸の多い護岸(ケース1)、コンクリートブロックのような凹凸の少ない護岸(ケース2)、法覆工を草本や木本で覆う植生護岸(ケース3)の3つの護岸を対象に整理するものとした。
 なお、インパクト・レスポンスフローでは、河川工学的に「セグメント2」と言われる範囲を対象としている。

引用文献


護岸におけるインパクト・レスポンス

整理対象区域


IR検討区域のイメージ

インパクト・レスポンスフローとして整理すべき区域は、3ケースとも共通して直接影響が現れる護岸面とした。










インパクト・レスポンスの概要(ケース1:凹凸の多い護岸



IRフロー(護岸・ケース1)

ケース1:凹凸の多い工法(系工法やカゴ系工法等)を用いた場合



 空護岸や空護岸のように凹凸の多い護岸の設置は、河岸の粗度の増加、河岸の横断的な連続性創出、間隙空間の形成といった直接的な変化を起こす。
 このうち河岸の粗度の増加は、流速掃流力)を減少させ、掃流される細粒土砂の量を減少させる。掃流される細粒土砂の減少分は、護岸上に沈降・堆積し、間隙空間もで充填される。
 このような護岸の設置により変化する物理変化は生物環境にも影響を与える。 護岸上への土砂堆積や間隙空間へのの充填は、植物に対しては発芽生育しやすい環境を形成し、植物遷移を促す働きをする。また、昆虫類底生動物といった小さな生き物に対しては、間隙空間を減少させるなど生息場の変化を引き起こし、相を変化させる可能性がある。
創出される横断的連続性は、陸地と水域を繋ぐ経路として重要な役割があり、両生類・昆虫類底生動物等の生息の維持や増加に寄与する。形成された間隙空間は、底生動物の生息場、魚類の生息場・休息場としての役割を果たし、魚類相の維持や拡大につながる。


物理環境のレスポンス(ケース1:凹凸の多い護岸



以下に、フロールートにおける現象を解説した。

IRフロー:物理環境のレスポンス(護岸-ケース1)

ケース1:凹凸の多い工法(系工法やカゴ系工法等)を用いた場合



 河床や河岸の凹凸が大きいほど粗度係数は大きくなり流速は小さくなる(引用:多自然川づくり研究会 2011)。流速が小さくなることは掃流力を低下させることを意味し、護岸上は土砂が沈降・堆積しやすくなる。  護岸部の粗度係数については、護岸構造と粗度係数の関係として、以下の値になることが分かっている(引用:建設省、1993)。

護岸構造と粗度係数の関係
(引用文献)


 全国の護岸をタイプ分けして特徴を整理した業務報告書では、空張、自然結合金網工、カゴマット工、蛇籠工に関して、「多孔質性と水際の横断連続性がある」としている(引用:国土交通省資料)。

(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


生物環境のレスポンス(ケース1:凹凸の多い護岸



以下に、フロールートにおける現象を解説した。

植物のレスポンス


IRフロー:植物のレスポンス(護岸-ケース1)

ケース1:凹凸の多い工法(系工法やカゴ系工法等)を用いた場合



 河岸のり面が生物の生息・生育場所として機能するためには、のり面上に空隙や凹凸が存在し、ここに土壌と適度な水分が供給・保持されることが必要となる。(引用:多自然川づくり研究会 2011)。  捨護岸の事例等では、捨上に土砂堆積し、植生が回復している様子が確認されている(引用:国土交通省資料)。

(引用文献)


陸域動物のレスポンス


IRフロー:陸域動物(両爬哺・昆虫類)のレスポンス(護岸-ケース1)

ケース1:凹凸の多い工法(系工法やカゴ系工法等)を用いた場合



 河岸のり面が生物の生息・生育場所として機能するためには、のり面上に空隙や凹凸が存在し、ここに土壌と適度な水分が供給・保持されることが必要となる(引用:多自然川づくり研究会 2011)。
 また、全国の護岸をタイプ分けして特徴を整理した業務報告書では、蛇籠工や空張工に関して、「間隙に土砂堆積すれば、昆虫類底生動物の生息環境となることも期待できる。」としている(引用:国土交通省資料)。

(引用文献)


 のり面の空隙・凹凸は、河川の横断方向の連続性、すなわち水域陸域における生物の移動経路としての重要な役割を果たすとともに、外敵から身を隠す、日射を遮り、湿潤度や温度が変化する空間を形成し、生物へ多様な生息空間を提供するという役割がある(多自然川づくり研究会 2011) 。

(引用文献)


 河岸表面の間隙に堆積した土砂昆虫類底生動物の生息環境創出につながる。  また、護岸の設置による横断的な連続性の確保は、水域陸域における生物の移動経路としての重要な役割を果たすとともに、外敵から身を隠す、日射を遮り、湿潤度や温度が変化する空間を形成し、生物へ多様な生息空間を提供するという役割がある(引用:多自然川づくり研究会 2011) 。

(引用文献)


底生動物のレスポンス


IRフロー:底生動物のレスポンス(護岸-ケース1)

ケース1:凹凸の多い工法(系工法やカゴ系工法等)を用いた場合



 全国の護岸をタイプ分けして特徴を整理した業務報告書では、蛇籠工や空張工に関して、「間隙に土砂堆積すれば、昆虫類底生動物の生息環境となることも期待できる。」としている(引用:国土交通省資料)。

(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


魚類のレスポンス


IRフロー:魚類のレスポンス(護岸-ケース1)

ケース1:凹凸の多い工法(系工法やカゴ系工法等)を用いた場合



  • ①間隙空間の形成→魚類相の維持・拡大

 のり面の空隙・凹凸は、河川の横断方向の連続性、すなわち水域陸域における生物の移動経路としての重要な役割を果たすとともに、外敵から身を隠す、日射を遮り、湿潤度や温度が変化する空間を形成し、生物へ多様な生息空間を提供するという役割がある。
 水際部には中、大、巨等様々な大きさのが積み重なる場合があり、その空隙や凹凸は生物の生息場所や河川が増水した際の避難場所としての機能を有している(引用:多自然川づくり研究会 2011)。

(引用文献)



インパクト・レスポンスの概要(ケース2:凹凸の少ない護岸



IRフロー(護岸・ケース2)

ケース2:凹凸の少ない工法(コンクリートブロック等の工法)を用いた場合



 凹凸が少ないコンクリートブロック護岸のように表面が滑らかな護岸の設置は、河岸の粗度係数の減少や横断的な連続性を低下させる。
 河岸の粗度の減少は、護岸周辺の流速掃流力)を増加させ、掃流される細粒土砂の量を増加させる。掃流する土砂量の増加は護岸上に沈降する土砂の量の減少を意味し、護岸を設置する前の状態に比べ、護岸上への土砂堆積は少なくなる。  土砂堆積量の減少や横断的な連続性の低下は、生物環境にも影響を与える。
 土砂堆積量の減少は、植物にとって必要な土壌の成立を遅らせ、発芽生育条件を悪化させる。結果として護岸設置前に比べ、植生の成立や遷移を遅らせる可能性がある。
 護岸の設置による横断的連続性の低下は、両生類・昆虫類底生動物の生息に重要な陸地と水域の移動を妨げることなり、その場の利用を減少させる。

物理環境のレスポンス(ケース2:凹凸の少ない護岸



以下に、フロールートにおける現象を解説した。

IRフロー:物理環境のレスポンス(護岸-ケース2)

ケース2:凹凸の少ない工法(コンクリートブロック等の工法)を用いた場合



 自然共生研究センターでは、牧田川(岐阜県木曽川水系)で、水際構造の異なる箇所で魚類調査と物理環境特性調査を行った。
 A(コンクリート河岸)、B(入り組み河岸)、C(植生河岸)の3タイプで比較した。  各水際タイプの流速と水深の分布(水際から1.0mまでの範囲)を比較すると、コンクリート河岸では、水深・流速の分布域が狭く、変化のない単調な環境となっている。特に、水深10cm以下、流速20cm/s以下の領域がほとんどなかった。(引用:多自然川づくり研究会 2011)。
 このようにコンクリート河岸では流速が早い傾向となり掃流力は低下し、土砂堆積傾向は弱まると考えられる。  白川水系白川の渡鹿地区に設置されている凹凸の少ない巨張工での護岸の事例では、巨の凹凸も小さいため、堆積はあまり見られないことが確認されている(引用:国土交通省資料)。

(引用文献)


 全国の護岸をタイプ分けして特徴を整理した業務報告書では、コンクリートブロック工や連節ブロック工、練張工に関して、「多孔質性、水際の横断方向連続性はない」としている(引用:国土交通省資料)。

(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


生物環境のレスポンス(ケース2:凹凸の少ない護岸



以下に、フロールートにおける現象を解説した。

植物のレスポンス


IRフロー:植物のレスポンス(護岸-ケース2)

ケース2:凹凸の少ない工法(コンクリートブロック等の工法)を用いた場合



 自然(練張)護岸での調査では「法覆工に用いられる玉の間隔が広いため、出水冠水した場合も空隙に土砂が定着しにくいことが挙げられる。この結果として、植生の進入もみられず、防護工が露出したままの状態となり、生物の生息・生育環境としては利用しがたい状況となっているものと考えられるとある(引用:国土交通省資料)。

(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


陸域動物のレスポンス


IRフロー:陸域動物(両爬哺・昆虫類)のレスポンス(護岸-ケース2)

ケース2:凹凸の少ない工法(コンクリートブロック等の工法)を用いた場合



 一般に河岸のり面が急で、表面がなめらかであるほど生物の登はんは難しくなり、カメ、イモリ、サンジョウウオ、ヒキガエル等の両生類や爬虫類は、勾配30度以下のコンクリート経路であれば、登はんが可能であることが分かっている。(引用:多自然川づくり研究会 2011)。

(引用文献)


インパクト・レスポンスの概要(ケース3:植生護岸



IRフロー(護岸・ケース3)

ケース3:植生護岸等(草本等による法面のカバーを想定)を用いた場合



 河岸を草本や木本で覆う植生護岸の設置は、河岸の粗度の増加、河岸の横断的な連続性創出といった変化や、水際植生による複雑な水際環境を形成させる。  このうち河岸の粗度の増加は、流速掃流力)を減少させ、掃流される細粒土砂の量を減少させる。掃流される細粒土砂の減少分は、護岸上に沈降し護岸上に土砂堆積させる。  護岸の設置により引き起こされる土砂堆積や複雑な水際の形成といった物理変化は、生物環境にも影響を与える。  護岸上への土砂堆積は、植物に対しては発芽生育しやすい環境を形成し、植物の生育や遷移を促す働きをする。また、昆虫類底生動物といった小さな生物に対しては、生息場の変化を引き起こし、相を変化させる可能性がある。  創出される横断的な連続性は、陸地と水域を繋ぐ経路として重要な役割があり、両生類・昆虫類底生動物等の生息の維持や増加に寄与する。形成された間隙空間は、底生動物の生息場、魚類の生息場・休息場としての役割を果たし、魚類相の維持や拡大につながる。

物理環境のレスポンス(ケース3:植生護岸



以下に、フロールートにおける現象を解説した。

IRフロー:物理環境の変化(護岸-ケース3)

ケース3:植生護岸等(草本等による法面のカバーを想定)を用いた場合



 河岸域に樹木などの植物が存在すると、洪水時に河道の流心に比べ河岸域が低流速域となる。(引用:多自然川づくり研究会 2011)  流速が小さくなることは掃流力の低下を意味し、護岸上は土砂が沈降・堆積しやすくなる。

(引用文献)


 河岸陸域から水域水域から陸域に移動する生物(昆虫(ゲンゴロウミズスマシ、ホタル等)、カニ類、両生類)の横断方向の移動経路として利用される。  河岸に草や砂礫が存在する場合には、昆虫やクモ類など食物連鎖を支える比較的小さな生物の生息を可能とし、それらを捕食する中型から大型の生物の生息場所としての役割も果たす。

(引用文献)


 水際部は川の営みによる浸食堆積などにより形成された地形で、水深や流速が複雑に変化し、多様な植生を持つ遷移帯が形成される。  特に草本類が繁茂する場合には、水位上昇の際には穏やかな流れの場を作り、魚類の避難場所、産卵場所、仔稚魚の生息場所になる(引用:多自然川づくり研究会 2011)。

(引用文献)



生物環境のレスポンス(ケース3:植生護岸



以下に、フロールートにおける現象を解説した。

植物のレスポンス


IRフロー:植物のレスポンス(護岸-ケース3)

ケース3:植生護岸等(草本等による法面のカバーを想定)を用いた場合



 狩川水系美唄川に設置されている植生マット護岸の事例では、「施工後1年後の法面の植生回復状況は順調で、クサヨシやオオヨモギ等の高茎草本が繁茂していた。今後は堆とともにヤナギの侵入が期待される」とされている(引用:国土交通省資料)。

(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


陸域動物のレスポンス


IRフロー:陸域動物(両爬哺・昆虫類)のレスポンス(護岸-ケース3)

ケース3:植生護岸等(草本等による法面のカバーを想定)を用いた場合



 水際部は、魚貝類などの水域の生物と陸域にすむ昆虫や小動物など、生活様式や場所が互いに異なった生き物の生息域となり、陸域水域生態系が交錯する境界を形成している。また、陸域水域を行き来する生物の移動経路となるなど、生態系における重要な位置づけにある(引用:多自然川づくり研究会 2011)。

(引用文献)



魚類のレスポンス


IRフロー:魚類のレスポンス(護岸-ケース3)

ケース3:植生護岸等(草本等による法面のカバーを想定)を用いた場合



 水際植生群は、植生帯による水際部の流速低減により、治水上の機能のみならず、水中部の植物水際の凹部は水際の流れを緩やかにし、遊泳力の弱い魚類、甲殻類の生息を容易にする。コイ魚類をはじめ遊泳魚仔稚魚の遊泳力は極めて小さく、流速が10cm/s以下であることが必要である(引用:多自然川づくり研究会 2011)。 また、水際植生群は、植生帯による水際部の流速低減は、魚類など水生動物の休息場所、避難場所、産卵場所、仔稚魚の生息場所を提供する機能を有している。

(引用文献)


着目した関係要素とその検証

 フローのうち、特に着目すべき応答の関係について、さまざまな事例における知見を整理した。
 なかでも、定量的な調査事例のみられた、護岸構造流速・水深の関係(A)、護岸構造魚類の生息可能領域の関係(B、C)については、定量的なデータを図表に整理した。

着目すべき応答関係についての知見


(ケース1:凹凸の多い護岸

(ケース3:植生護岸

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