築堤・引堤

提供: 河川生態ナレッジデータベース

河川事業のインパクト・レスポンスに関する情報

目次

概要

背景

 河川は、上流降雨が表流水となって比高の低い土地に流下する際の流路である。太古の昔、流路は固定せず出水ごとに自由に移動しながら流れていた。しかし沿川に人類が生活をするようになり、流路の移動は生活の安定性を脅かすものとして、河道の位置を安定化するために堤防が整備され、今日に至っている。
 堤防は、計画規模に対応して建設されるが、既往の出水規模は次第に大きくなるため計画規模は見直されており、計画断面が不足する区間も多い。この不足する断面を大きくする方法として、不足分を確保する「堤防の嵩上げ」や流水断面の不足分を横断方向に確保する「引」が行われてきた。


方法
 築は、治水上流下能力の不足する箇所において、出水時に上昇する水位に対し余裕高を加えた高さまで堤防を新しく盛土、または嵩上げすることにより、計画規模に対する洪水被害の防止を図るものである。
 引は、治水上流下能力の不足する箇所において、水路幅の拡大、堤防法線の修正などのために、既設の堤防内側に移動させることにより、計画規模に対する洪水被害の防止を図るものである。

の概要 の概要


インパクト・レスポンスフローで扱う対象
 築は、堤防の新設・嵩上げによる、自然地の消失、堤防の出現及び河積の拡大を対象として整理した。また、引は、堤防堤内地側への移設による、堤防の出現、堤防の撤去及び河積の変化を対象として整理した。


におけるインパクト・レスポンス

整理対象区域


 インパクト・レスポンスフローとして整理する区域は、築を実施した箇所およびその上下流とした。ここにその上下流は、築箇所における施工が間接的にもたらす水理現象の変化範囲とするが、厳密には築の規模(高さ)や河道流量出水時の河積などにより範囲は様々となる。直轄河川では、多くの場合河積が大きく築前の溢水を河道内に留めることによる水位上昇は比較的小さいと考えられるため、築区間上下流の影響範囲は短いと考えられる。このことから、築が行われる区間に限定して整理した。
 また、インパクト・レスポンスフローは、築により生じる可能性のある物理環境の1次レスポンスを考慮し、横断方向に以下の4つの小区域に分割して整理した。

の概要と小区域設定



インパクト・レスポンスの概要



IRフロー(築



の実施により生じる物理環境及び生物環境の変化を、直接改変を受ける堤防建設箇所(区域-1)とそれ以外(区域-2、3)に分けて概説すると以下が考えられる。

区域-1:(築区域:無状態もしくは既存堤防から新規堤防に変化する区域)
  • により、それまで形成されていた自然地の上に堤防が形成されることから、自然地は消失する(引用:国土交通省資料)。これによりこれまで広がっていた場の物理的な特性は消失することになる(引用:国土交通省資料)。また、築により、無状態または既設堤防箇所には新たに想定する計画流量に対応した標高をもつ堤防が出現する(引用:国土交通省資料)。新たな堤防は、原則として土で建設されるため、整備直後の堤防法面には裸地が出現するなど、新たな場が出現する。これにより、裸地にはパイオニア種となる草本類の生長・遷移や人為的な管理の過程を経て安定的な植生が生長する法面が形成される。


区域-2:(築区域に隣接する高水敷および水際の区域)
  • 新たに堤防が出現することで、堤内地河川との流水連続性が遮断されるが、事業によっては堤内地の治水対策(内水排除)や河川水の水利用、および環境保全を目的とした堤内地取排水施設が設置される場合がある(引用:国土交通省資料)。これにより、平常時における堤内地水際湿性地との水収支や水質が維持される(引用:国土交通省資料)。これにより、堤内地に生息する底生動物魚類などの水域動物が河道内湿性地に移動可能な状態が維持されることから、河道内湿性地の水域生物が維持される(引用:国土交通省資料)。
  • また、新たに堤防が出現することで、堤内地河川区域の間の連続性は遮断される。しかし、この区域は直接的な改変を受けないことや、堤内地取排水施設が設置される場合がある(引用:国土交通省資料)ことから、平常時における湿性地の場は維持される(引用:国土交通省資料)。これにより湿性地に生息する陸域生物は維持される(引用:国土交通省資料)。


区域-3:(平常時であっても冠水する区域)
  • により出水時における流水の移動が河道内に限定されると、築前において堤内地に溢水していた流水が河川内においてすべて流下することになる。これにより、河川水位が上昇し、出水時の河積が高さ方向に拡大し、河川水位はわずかに上昇する。しかし、わずかな水位の上昇では、水理量に大きな変化が生じにくく、また出水時に移動する土砂(フラックス)は変化しないことから、河床材料は築前の形状や構成する材料の粒径が維持される。これにより生息場の河床の状態が維持された水域では、築以外のインパクトが生じない限り動的に平衡な状態をもって生息場が維持されると考えられるため、生物相や生物個体数等が維持される。



(引用文献)

  • 1)国土交通省資料


(参考文献)



物理環境のレスポンス


以下に、フロールートにおける現象を解説した。

ch_physics

IRフロー:物理環境のレスポンス(築



1) 区域-1:築区域(無状態もしくは既存堤防から新規堤防に変化する区域)
  • ①築→自然地の消失
が行なわれる箇所は、無状態もしくは計画未満の高さをもつ既存堤防の箇所である。築により、それまで形成されていた自然地の上に堤防が形成されることから、自然地は消失する(引用:国土交通省資料)。


  • ②自然地の消失→場の物理的な消失
自然地または二次的自然地となっていたこの箇所は、整備前までは多様な形状や材料で形成されていたと考えられる。築または堤防の嵩上げにより改変が行なわれることで、場の形状や材料は安全性が確保された人為的な場が形成されることになり、これまで広がっていた場の物理的な特性は消失することになる(引用:国土交通省資料)。


により、無状態または既設堤防箇所には新たに想定する計画流量に対応した標高をもつ堤防が出現する(引用:国土交通省資料)。


新たな堤防は、原則として土で建設される。また堤防の表面は、近年の多自然川づくりにおいて、護岸等人為的な処理をなるべく採用しないように指導されている。これにより、整備直後の堤防法面にはこれまで周辺には余り見られない裸地が出現するなど、新たな場が出現する。



2) 区域-2:築区域に隣接する高水敷および水際の区域
新たに堤防が出現することで、これまで堤内地河川区域の間に形成されていた横断連続帯を遮断するように堤防が出現する。これにより、堤内地河川との流水連続性が遮断されるが、事業によっては堤内地の治水対策(内水排除)や河川水の水利用、および環境保全を目的とした堤内地取排水施設が設置される場合がある(引用:国土交通省資料)。これにより、平常時における堤内地水際湿性地との水収支や水質が維持される(引用:国土交通省資料)。


  • 堤防の出現→湿性地の場の維持
新たに堤防が出現することで、これまで堤内地河川区域の間に形成されていた横断連続帯を遮断するように堤防が出現する。しかし、この区域は直接的な改変を受けないことや、堤内地取排水施設が設置される場合がある(引用:国土交通省資料)ことから、平常時における湿性地の場は維持される(引用:国土交通省資料)。



3) 区域-3:平常時であっても冠水する区域
  • ⑦築→河積の拡大
により出水時における流水の移動が河道内に限定されると、築前において堤内地に溢水していた流水が河川内においてすべて流下することになる。これにより、河川水位が上昇し、出水時の河積が高さ方向に拡大する。


  • ⑧河積の拡大→生息場の河床の状態の維持
河積の拡大に伴い、河川水位は上昇する。この水位上昇量はこれまで溢水していた量により変化するが、直轄管理河川のような大河川では多くの場合川幅が広いため、流量の増加がもたらす水位の上昇は小さいと考えられる。河川の流れは連続の式(Q=Av、Q:流量、A:流積、v:流速)で与えられる(引用:国土交通省資料)。築による溢水抑制により河川を流下する流量は増加するが、築は縦断的な勾配の変化を及ぼさないことから流速は維持されるため、主に流積の変化をもたらすことになる。今、A:流積を便宜的に横断幅:水面幅、水深:径深で考えれば、水面幅は現在の河道幅から大きく変化しないことから、流量の増加は径深の増加をもたらすことから、理論上河川水位が上昇することになる。この現象は、中小河川のように河道幅や出水流量が小さい河川においては顕著に生じやすいが、直轄管理河川のような大河川では多くの場合川幅が広いため、流量増加に対する水位上昇割合は小さくなり、水位上昇量は理論上小さなものとなる場合がある。
 わずかな水位の上昇では、水深が維持されるため発生する掃流力も維持される。また冠水頻度も維持される。出水時に移動する土砂(フラックス)の量や質は水深などの条件が同一であれば理論上変化しないことから、河床材料は築前の形状や構成する材料の粒径が維持される(引用:国土交通省資料)。これにより生息場の河床の状態は維持される。


(引用文献)

  • 1)国土交通省資料


(参考文献)



生物環境のレスポンス


以下に、フロールートにおける現象を解説した。

(1) 水域生物のレスポンス

IRフロー:水域生物のレスポンス(築


1) 区域-2:築区域に隣接する高水敷および水際の区域
平常時における堤内地水際湿性地との水収支や水質が維持されることにより、堤内地に生息する底生動物魚類などの水域動物が河道内湿性地に移動可能な状態が維持されることから、河道内湿性地の水域生物が維持される(引用:国土交通省資料)。


2) 区域-3:平常時であっても冠水する区域
  • ②生息場の河床の状態の維持→生物相・生物個体数等の維持
生息場の河床の状態が維持された水域では、築以外のインパクトが生じない限り動的に平衡な状態をもって生息場が維持されると考えられるため、生物相や生物個体数等が維持される。



(2) 陸域生物のレスポンス

ch_landlife

IRフロー:陸域生物のレスポンス(築


1) 区域-1:築区域(無状態もしくは既存堤防から新規堤防に変化する区域)
  • ①場の物理的な消失、新たな堤防法面の出現→植生の新たな生長
これまで形成されていた場に堤防が建設されることで、これまで形成されていた物理環境が消失し、かわりに裸地を初期状態とする堤防法面が出現する。裸地には、パイオニア種となる草本類の生長・遷移や人為的な管理の過程を経て安定的な植生が生長する法面が形成される。


2) 区域-2:築区域に隣接する高水敷および水際の区域
  • ②湿性地の場の維持→陸域生物の維持
直接改変を受けない箇所では、平常時における堤内地水際湿性地との水収支や水質が維持されることにより、堤内地に生息する植生陸域動物は、新たな撹乱を受けにくい(引用:国土交通省資料)。これにより湿性地に生息する陸域生物は維持される(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)

  • 1)国土交通省資料


(参考文献)



におけるインパクト・レスポンス

整理対象区域


 インパクト・レスポンスフローとして整理する区域は、引を実施した箇所およびその上下流とした。ここにその上下流は、引箇所における施工が間接的にもたらす水理現象の変化範囲とするが、厳密には引の規模(堤内地への移動距離)や河道流量出水時の河積などにより範囲は様々となる。直轄河川では、多くの場合河積が大きく引前の溢水を河道内に留めることによる水位低下は比較的小さいと考えられるため、引区間上下流の影響範囲は短いと考えられる。このことから、引が行われる区間に限定して整理した。
 また、インパクト・レスポンスフローは、築により生じる可能性のある物理環境の1次レスポンスを考慮し、横断方向に以下の4つの小区域に分割して整理した。

の概要と小区域設定



インパクト・レスポンスの概要



IRフロー(引



の実施により生じる物理環境及び生物環境の変化を、直接改変を受ける堤防建設箇所(区域-1、2)とそれ以外(区域-3)に分けて概説すると以下が考えられる。

区域-1:(築区域:引により新たに堤防が整備される区域)
  • により、無状態または既設堤防箇所には新たに想定する計画流量に対応した標高をもつ堤防が出現する。新たな堤防は、原則として土で建設されるため、整備直後の堤防法面には裸地が出現するなど、新たな場が出現する(引用:国土交通省資料)。これにより、裸地にはパイオニア種となる草本類の生長・遷移や人為的な管理の過程を経て安定的な植生が生長する法面が形成される。


区域-2:(堤防が撤去される区域・水際部)
  • に伴い、出水時における流水を安全に流下させるための河積確保を行なうため、既設堤防は撤去され、盛土形状をもつ場は物理的に消失する。一方で、旧の撤去後は、河積確保のために高水敷や中水敷等の標高程度まで整地され。新たに裸地が出現する。裸地は、周辺の草本類や木本類が飛散した子により、次第に草本類や木本類が生長し、河道内の植生域は拡大していく。


区域-3:(平常時であっても冠水する区域)
  • により横断方向に河道断面が広がり。河川水位の低下に寄与する。しかし直轄河川などの大河川では水位低下量は理論上小さなものとなる。わずかな水位の低下では、水理量に大きな変化が生じにくく、また出水時に移動する土砂(フラックス)は変化しないことから、河床材料は築前の形状や構成する材料の粒径が維持される(引用:国土交通省資料)。
  • このような水域では、引以外のインパクトが生じない限り動的に平衡な状態をもって生息場が維持されると考えられるため、生物相や生物個体数等が維持される(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)

  • 1)国土交通省資料


(参考文献)



物理環境のレスポンス


以下に、フロールートにおける現象を解説した。

hi_physics

IRフロー:物理環境のレスポンス(引



1) 区域-1:築区域(引により新たに堤防が整備される区域)
により、無状態または既設堤防箇所には新たに想定する計画流量に対応した標高をもつ堤防が出現する(引用:国土交通省資料)。


新たな堤防は、原則として土で建設される。また堤防の表面は、近年の多自然川づくりにおいて、護岸等人為的な処理をなるべく採用しないように指導されている。これにより、整備直後の堤防法面にはこれまで周辺には余り見られない裸地が出現するなど、新たな場が出現する。


2) 区域-2:堤防が撤去される区域および改変されない水際区域
  • ③引堤防の撤去
  • に伴い、出水時における流水を安全に流下させるための河積確保を行なうため、既設堤防は撤去される。


  • 堤防の撤去→場の物理的な消失
堤防の撤去により、盛土形状をもつ場は物理的に消失する。


の撤去後は、河積確保のために高水敷や中水敷等の標高程度まで整地される。



3) 区域-3:平常時であっても冠水する区域
  • ⑥引→河積の変化
により横断方向に河道断面が広がる。これにより、出水時に高水敷等が冠水した場合、引前に比べ河積が横断方向に変化する。


  • ⑦河積の変化→生息場の河床の状態の維持
出水時において、河積の横断方向の変化(拡大)は、流速が変化しないとの仮定のもと、河川水位の低下に寄与する。この背景には、出水時の流積は横断幅と水深の積によるためである。河川の流れは連続の式 (Q=Av、Q:流量、A:流積、v:流速)で与えられる(参考:大西外明 1983)。同一流量のもとでは、引は縦断的な勾配の変化を及ぼさないことから、流速は維持されるため、引は主に流積の変化をもたらすことになる。今、A:流積を便宜的に横断幅:水面幅、水深:径深で考えれば、引により水面幅が広がることで、径深が減少するため、理論上河川水位が低下することになる。この現象は、中小河川のように河道幅や出水流量が小さい河川においては顕著に生じやすいが、直轄管理河川のような大河川では多くの場合川幅が広いため、流積変化の割合が小さくなり、水位低下量は理論上小さなものとなる場合がある。これにより、引後の冠水頻度は大きな変化とならず、水深の関数である掃流力掃流力の大小により変化する土砂フラックスも引前の状態がおよそ維持されるため、生息場の河床の状態は維持されると考えられる。



(引用文献)

  • 1)国土交通省資料


(参考文献)



生物環境のレスポンス



以下に、フロールートにおける現象を解説した。

(1) 水域生物のレスポンス

hi_waterlife

IRフロー:水域生物のレスポンス(引



1) 区域-3:平常時であっても冠水する区域
  • ①生息場の河床の状態の維持→生物相・生物個体数等の維持
生息場の河床の状態が維持された水域では、引以外のインパクトが生じない限り動的に平衡な状態をもって生息場が維持されると考えられるため、生物相や生物個体数等が維持される(引用:国土交通省資料)。



(2) 陸域生物のレスポンス

hi_landlife

IRフロー:陸域生物のレスポンス(引



1) 区域-1:築区域(引により新たに堤防が整備される区域)
  • ①新たな堤防法面の出現→生息場の出現
新たに出現する、裸地を初期状態とする堤防法面は、様々なの生息場として活用される。裸地にはパイオニア種となる草本類の生長・遷移や人為的な管理の過程を経て安定的な法面となり、形成される植生帯を好適環境とした動物が生息するなど、様々な生物の生息場となる。生息場では新たな生物相を形成するとともに、生物個体数の出現などの変化をもたらす。


2) 区域-2:堤防が撤去される区域および改変されない水際区域
  • ②場の物理的な消失・新たな河道内区域の出現→植生域の拡大
撤去などの工事により、これまで堤防法面などを生息場としていた植生陸域動物の生息場が一時的に消失する(引用:国土交通省資料)。工事直後に出現する裸地は、周辺の草本類や木本類が飛散した子により、次第に草本類や木本類が生長するとともに、ここを生息場とする周辺地と同様な環境の場が形成される。これにより、旧箇所が植生域となることで、河道内の植生域は拡大していく。



(引用文献)

  • 1)国土交通省資料


(参考文献)


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