河口干潟再生

提供: 河川生態ナレッジデータベース

河川事業のインパクト・レスポンスに関する情報


目次

概要

背景

 河川水域は、河川縦断方向にも、また横断方向にも水質河岸、底質材料及び微地形が変化する環境傾度の大きい空間であり、その環境の質の差に応じて生物が棲み分ける特殊な特異で貴重な空間である。大洪水や人為的地形の改変を受けると、淡水と海水のバランスや土砂動態が変化し、それに応じて生態系の変化が生じる変化速度の速い場所である(引用:楠田ほか 2008)。
 また人間とのかかわりが多い場所であるため、多くの河口水域は既に人間により改変されており、干潟は減少している。このため、河口干潟再生が必要となっている。

(引用文献)



方法

 河口干潟再生は、潮汐の変化により干出しえる比高差となっている河口付近の汽水域区間において、掘削や盛土、低水護岸等を整備・保全し、定期的に冠水~干出を繰り返す低水路部または水際部を維持するものである。
 湿地類に関するラムサール分類体系では、湿地は、「海洋沿岸湿地」「内陸湿地」「人工湿地」に分けられる(が、河口干潟は海洋沿岸湿地のうち以下が該当する(引用:ラムサール条約条文)。

 ・河口域河口の永久的な水域デルタ河口域
 ・潮間帯の質、質、塩生干潟
 ・潮間帯湿地、塩性湿地、塩水草原、塩性沼地、塩性高層湿原潮汐汽水沼地、干潮淡水沼地を含む

 なお、河口干潟再生の方法は、河岸部の水際の掘削または盛土、あるいは低水護岸等を整備する方法などがある。

(引用文献)



インパクト・レスポンスフローで扱う対象

 ここでは、河口干潟再生事業のうち、盛土により整備する方法を対象としてIRフローを作成するものとした。
 なお、河口干潟再生が実施される河口部は、海と陸の接点に位置するため海水と淡水が混合する。また、周期的に発生する潮汐波浪等の作用をうけ、常に変動する特殊な環境を有している。
 このような複雑な環境を有する河口域に対し、インパクト・レスポンスフローは以下の前提条件のもと作成した。

河道特性(河口部およびその上流におけるセグメント


 河口部に流れ込む河道の形態は、以下の図のように河口部の河床勾配河床材料によりタイプ分けがされる。
 今回の検討にあたっては、以下の図のType-6,Type-7に該当する海との接続点が緩やかな河川想定するものとした。これは緩やかに海に流れ込む区間が比較的長い河川である。

図:河口に流れ込む河道の分類
(引用文献)
  • 1)国土技術政策総合研究所,土木研究所(2009)国総研資料№521 ダムと下流河川の物理環境との関係の捉え方(国総研資料No521)



干潟標高


 盛土により造成される干潟標高は、平均潮位以上の高さと平均潮位以下の高さの2通りを想定する。盛土による河口干潟再生を実施することで、事業区域の冠水時間が減少する。

【検討対象とする盛土の標高】
   1.干潟標高≧平均潮位(冠水しない日があるが月の半分程度は冠水する標高程度)
   2.干潟標高≦平均潮位(1日に2回必ず冠水する標高程度)

図:検討で対象とする干潟標高



潮汐変動パターン


 干潟の形成に関して、潮汐の影響は無視できるものではない。
 潮汐の大きさは、日本でも地域により異なるが、潮汐の変動パターンは5つのタイプに分類できる(岸田ほか 2011)。
 本検討ではこのうち、潮汐が非常に大きいクラスター3および、潮汐がやや大きいクラスター1の河川を対象とし、それぞれケース1、ケース2としてIRフローを作成するものとした。

file: kh_chosekiHendo.jpg
表:潮汐変動パターンのタイプ
(出典:水工学論文集第55巻 河川水域環境管理技術確立のための全国一級水系の汽水域環境類型化)



(引用文献)


海水と淡水の混合形態


 河口部での塩水(海水)と淡水(河川水)の混合は、潮汐の大きさ(海水の流れ込む強さ)と河川の自流の強さのバランスによって形態が異なる。
 潮汐が非常に大きい河川では、海水上流方向へ押し上げる力が強いため、断面全体で押し上げるように流れ込む強混合型の形態をとる。
 一方で、潮汐がやや大きい河川では、海水が淡水の下に潜り込むように流れ込む弱混合型の形態をとる。
 今回の検討では、潮汐の大きい河川を対象とするケース1での混合形態を強混合型、潮汐がやや大きい河川を対象とするケース2での混合形態を弱混合型と想定し、フローの作成を行う。

file: kh_kaisui&tansui.jpg
図:海水と淡水の混合形態のイメージ



海水による土砂の供給


 潮汐による土砂の移動は、海水の流れにより巻き上げられた土砂が運ばれることにより生じる。
 強混合型の場合は、海水が全体を押し上げるように遡上するため、遡上時において海水に混入する土砂の鉛直濃度分布は上下層で比較的均一になると考えられる。
 一方で、弱混合型の場合は、海水が底面からくさび形状をもって遡上するため、遡上時において海水に混入する土砂の鉛直濃度分布は上下層で異なると考えられる。なお、海水の降下時における土砂の鉛直濃度分布は混合形態の違いに係らず、くさび形状をもって分布すると考えられる。
 このような土砂の鉛直濃度分布で示す河口域干潟再生のための造成(盛土など)を実施する場合について考える。概要を示す。
強混合型の場合は、鉛直方向の濃度分布の差は少ない。造成する干潟の高さによる遡上土砂量の差が小さいと言える。
 一方で弱混合型の場合は、鉛直方向の土砂濃度も上層で低くなる。そのため、造成する干潟の高さにより遡上土砂量の大きさに違いが生じる。このことから、海水により造成干潟にもたらされる土砂収支(量)は海水の混合形態と造成する干潟形状により異なることが考えられる。

file: kh_sojojiMizuChigai.jpg
図: 遡上時に造成地盤上を流れる水の違い



IRフローで整理する組合せ


 上述した前提条件を整理すると以下の表となる。
 本検討では、ケース1、ケース2に分類しIRフローの作成を行った。

表:IRフローで整理対象とする組合せ
河道特性は国総研資料No.521による
潮汐変動タイプは岸田ほか(2011)による
(引用文献)
  • 1)国土技術政策総合研究所,土木研究所(2009)国総研資料№521 ダムと下流河川の物理環境との関係の捉え方(国総研資料No521)
  • 2)岸田弘之ほか(2011)河川水域環境管理技術確立のための全国一級水系の汽水域環境類型化 土木学会水工学論文集,第55巻



河口干潟再生におけるインパクト・レスポンスの概要

整理対象区域


 盛土による河口干潟再生では、水際冠水時間や冠水深の変化が想定される。インパクト・レスポンスフローとして整理すべき区域は、干潟再生箇所周辺において、物理環境が変化する区域と物理現象が変化しない区域の2つとした。

図:区域の設定



インパクト・レスポンスの概要(ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川


IRフロー(河口干潟再生

ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定




 河口域は、河川の自流における上流から下流への順流と、潮汐による流れ(満ち潮では下流から上流への逆流、引潮による上流から下流への順流)により複雑な土砂移動形態をとる。

 盛土により地盤が上昇した干潟は、洪水時や平常時の潮汐時での冠水深が減少し、干潟上の土砂堆積形態に変化を与える。
潮汐変動が大きく海水と淡水が鉛直方向に均一に交じり合う強混合型の形態をとる河川では、洪水時および平常時において鉛直方向による変化は大きくならないため、流入土砂の質と量は維持される。
 一方で掃流される土砂については、水深の減少により掃流力が低下することで、掃流土砂量の減少や掃流土砂の細粒化を引き起こす。
 このように土砂の流入・流出作用により、造成された干潟の河床高は上昇し、河床材料は粗粒化する傾向となる。

 地盤高や河床材料が変化した河床は、海水の流入によって塩分濃度が上がり、河口干潟を形成する。この形成された河口干潟は、湿生植物の生育域や、干潟環境に生息する底生動物魚類の分布域や構成を変化させる。また河口干潟を餌場としている鳥類などの場の利用を増加させる。

物理環境のレスポンス(ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川


 以下に、フロールートにおける現象を解説した。


IRフロー:物理環境のレスポンス(河口干潟再生

ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定



 干潟造成の事例では、造成後より、各試験区の斜面部と平坦部の境界付近(又は勾配変化部分)において、堆積(バームの形成)が見られるようになった。これは通常時の潮汐と波の作用により、干潟が供給されているためであると考えられ(引用:国土交通省資料)、潮汐が河床高の上昇に寄与していることが伺える。
 地盤高の違いによる土砂堆積傾向は、地盤高が高い場所への浮遊土砂の量の輸送量が、低い場所の5%程度とした事例(引用:国土交通省資料)があり、地盤高が土砂堆積に対して重要な要因となっていることが考えられる。
 河川の順流による土砂移動への寄与は、洪水によって表層堆積の掃流や最大で60cmを越える土砂堆積すると考えられる(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


 干潟造成後の底質は、低地盤(現況高区)では安定的で、高地盤(平坦2区)では粒度が大きくなる傾向を示すと考えられる(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


生物環境のレスポンス(ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川


以下に、フロールートにおける現象を解説した。

植物のレスポンス



IRフロー:植物のレスポンス(河口干潟再生

ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定




 水生植物や湿塩性植物植生が繁茂する干潟と繁茂していない干潟の間には、標高と冠水割合に有意な差があると考えられる(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


底生動物のレスポンス




IRフロー:底生動物のレスポンス(河口干潟再生

ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定



 地盤高が底生生物に及ぼす影響として、高地盤であると、底生生物の多様性が低く、二枚貝類も少ないが、甲殻類は多いと考えられる(引用:国土交通省資料)。
 また、ハマグリは非干出域ではほとんど出現せず、地盤高T.P.-1.0m以上の場所に多く出現している。アサリは、ハマグリと比較して深い場所にも多く出現しており、特に稚貝は年変動が大きいものの、高塩分水塊が進入しやすく地盤高の低い場所に定着する傾向があると考えられる(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


 河床材料の変化と底生生物相には関連が見られ、粒度が粗いほど生息密度が高い傾向にあった。また底生生物の生物量は、干潟造成前の2009年と比べて、造成後の2010年の方が多かった。
 加えて、河口干潟に生息する主な生き物であるカニについては、干潟造成後にカニ類が定着するまでに必要な期間は短いと考えられる(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


魚類のレスポンス



IRフロー:魚類のレスポンス(河口干潟再生

ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定



 人工干潟造成後2年後には、整備前に比べ、類数・個体数ともに増加し、多数の稚魚や幼魚も確認されたことから、干潟の生育場所としての効果が考えられる(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


鳥類のレスポンス



IRフロー:鳥類のレスポンス(河口干潟再生

ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定



 人工干潟造成後2年後には、ダイサギコアジサシなどは干潟・汀線での摂餌が確認されており、干潮時に干出する干潟の面積は小さいものの鳥類の採餌場としての役割を果たしていると考えられる(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


インパクト・レスポンスの概要(ケース2:潮汐変動がやや大きく、弱混合型の河川



IRフロー(河口干潟再生

ケース2:潮汐変動がやや大きく、弱混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定



 河口域は、河川の自流における上流から下流への順流と、潮汐による流れ(満ち潮では下流から上流への逆流、引潮による上流から下流への順流)によって生じ複雑な土砂移動形態を生じさせる。

 盛土により地盤が上昇した干潟は、洪水時や平常時の潮汐時での冠水深が減少し、洪水時および潮汐時の土砂堆積形態に影響を与える。
洪水時については、流入土砂濃度の高さに濃度変化が少ないのに対して、掃流土砂量は水深の減少による掃流力の低下で減少する。結果、堆積傾向となる。
 潮汐時については、流入土砂量は、潮汐変化が小さく弱混合型とよばれる海水と淡水の混合形態をとる河川では、鉛直方向上面に向かい土砂濃度は減少するため地盤の高い場所ほど土砂供給量は減少する。一方で、水深の減少により掃流土砂量は水深の減少による掃流力の低下で減少する。結果として、土砂堆積傾向の変化は少ない。
 このような洪水時および潮汐時の土砂移動作用により、造成された干潟の河床高は変化するものと考えられる。

 地盤高が変化した河床は、海水の流入によって塩分濃度が上がり、河口干潟を形成する。形成した河口干潟は、ヨシなどの湿性植物などの生育環境を変化させたり、二枚貝などの底生動物の生息場を変化させたりする。

物理環境のレスポンス(ケース2:潮汐変動がやや大きく、弱混合型の河川


 以下に、フロールートにおける現象を解説した。


IRフロー:物理環境のレスポンス

ケース2:潮汐変動がやや大きく、弱混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定



 干潟造成後の平成16年から平成19年にかけての変化は、突出部の浸食や窪地部への堆積による地形の平滑化が確認され、この期間の変化は、土砂の流れ出しによる全体的な地盤高の低下が生じる。特に下流部では、潮間帯中部が低下して潮間帯下部に移行している部分が見られる(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


生物環境のレスポンス(ケース1:潮汐変動が大きく、強混合型の河川


以下に、フロールートにおける現象を解説した。

植物のレスポンス




IRフロー:植物のレスポンス(河口干潟再生

ケース2:潮汐変動がやや大きく、弱混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定



 ヨシが優占し他の植物の混生が僅かな場所は、潮汐の干満により絶えず冠水による影響を受けている場所であり、ヨシ群落内にその他の混生が比較的多く見られる場所は、年間を通してあまり冠水しない場所であった(引用:国土交通省資料)。
(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


底生動物のレスポンス




IRフロー:底生動物のレスポンス(河口干潟再生

ケース2:潮汐変動がやや大きく、弱混合型の河川河道特性--Type6(7)を想定



 地盤高と底生動物の関係について、底生動物の多様性やゴカイ属の湿重量と、地盤高の間に負の相関があるものと推察される(引用:国土交通省資料)。


(引用文献)
  • 1)国土交通省資料


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